ここからワンダーランド

毎回テーマに沿って4人が思い思いに綴ります

ブログメンバー4人で昔なつかし「質問バトン」をしてみた(芦屋こみね編)

こんにちは!「ここからワンダーランド」ではお久しぶりです、こみねです。
長らく更新してなくて申し訳ございませんでした……(´;ω;`)これからぼちぼちするよってみんなが言ってたよ。

今回は4人で、昔なつかし「バトン」をやってみよう!ということで、20問をひたすら打ち返す企画です。
質問はここワンメンバー4人で考えたよ!


1・インターネットの最初の記憶は?

ヤフーキッズ。小学生のときパソコン教室でパソコンに触って、それが初めてのネット体験だったような……。小学生のころに家にパソコンが来て、それから好きな漫画やアニメのファンサイトを回ったりっていう使い方を覚えたような気がします。掲示板とか懐かしい。

2・小さい頃好きだった絵本は?

母が林明子さんの絵本が好きだったので、よく読んでました。多分実家に全著書あるのでは……。単著なら『こんとあき』『はじめてのキャンプ』共著なら『いもうとのにゅういん』とか『ぼくはあるいた まっすぐまっすぐ』が好きでした。あといわむらかずおさんの「14ひきの」シリーズ。私がネズミ好きなのはこれが原因なのではと思う。あと「うんこのだいぼうけん」って本大好きでした。寝る前父親に何回もこれ読ましてました。

こんとあき (日本傑作絵本シリーズ)

こんとあき (日本傑作絵本シリーズ)

ぼくはあるいたまっすぐまっすぐ (世界こども図書館B)

ぼくはあるいたまっすぐまっすぐ (世界こども図書館B)

14ひきのひっこし (14ひきのシリーズ)

14ひきのひっこし (14ひきのシリーズ)

うんこのだいぼうけん―下水道のはなし (知識の絵本)

うんこのだいぼうけん―下水道のはなし (知識の絵本)


3・習い事何してた?

ピアノ(5歳~12歳くらいまで。もう覚えてない)、スイミングスクール(7歳~12歳くらいまで。速くないけどだいたいの泳法で泳げます)、ジャズダンス(7歳~18歳まで。一番頑張ってた)、学習塾(中学3年間。英語と数学。地元のおばちゃんがおしえてくれる個人塾でした)。

4・一番好きなアイスは?

今年の夏はMOWのミント味にひたすらハマってました。どうして夏季限定なの……。あとトルコ風アイスのバニラ味が大好きなのにたまに復刻版が出るのみとなってしまった……。今売ってるのだったら板チョコアイスが好き。



5・カバンの中身は?

f:id:ashiyakomine:20151029204218j:plain
(上段左から)

  • イヤホン
  • ぱくぱくポーチ
    • 金魚の口みたいにぱくぱく開くポーチです。中にミントのタブレットを入れてます。
  • 化粧ポーチ
    • 化粧直しに必要なものだけ入れてます。

(中段左から)

(下段左から)

  • パスケース
    • ICOCAが入ってます。パンケーキのかたち。
  • メモとペン
    • メモはRHODIAのピンク。ペンは赤い木軸のボールペンです。
  • ポーチ
    • 鍵とかハンパに余ったお菓子とかこまごましたものを入れてます。

6・今年ちょっとだけハマったものは?

ハーブティー

7・自分がアイドルだったら売れるために何をする?

ジャニオタなのでジャニーズになったらと想定するんですけど、なるべくみんなが楽しいように頑張ると思います、MCで話を振ったり全力ファンサしたり。へへ。

8・今欲しいものは?

リュックがほしいです。今パソコンをほぼ毎日持ち歩いているのですが、パソコンバッグで持ち歩いていて手にタコができてきたので……。

9・ここで一句

さつまいもお庭で焼いて食べたいな

10・3人それぞれに本か漫画をすすめるなら?

あややさん

『神様がくれた指』(佐藤多佳子

神様がくれた指 (新潮文庫)

神様がくれた指 (新潮文庫)

ごめんなさい単純に好きなので呼んでほしい……。スリ師の主人公がちょっとV6の岡田くんっぽいイメージだったので。

●もぐもぐさん

かわうそは僕の嫁』(街子マドカ

かわうそがかわいいので……。もぐもぐさんなんとなくかわうそ好きかなって……。

●ひらりさちゃん

ノスタルジア』(埜田杳)

ノスタルジア (角川文庫)

ノスタルジア (角川文庫)

まあこれも私が好きなんですが、なんか救いのない感じ。読んでもらって感想を語り合いたい。

11・印象に残っている夢

なんかどっか東南アジアとかインドとかそういうとこの蚤の市を走って逃げていて、最終的に二階の建物のバルコニーから銃で撃たれて走っているホロのついた馬車の上に落ちる夢。死んだかどうか覚えてない。

12・自分に芸名をつけるなら?

なんの芸名かによるけど、芦屋こみね気に入ってるからそのまま使いたいな。でも「ひらがな+子」がすごい好きなので、ゆり子とか、まみ子とか、なつ子とか、そういうのでもいいかも。

13・好きな調味料は?

ごま油。

かどや 金印 純正ごま油 200g

かどや 金印 純正ごま油 200g



14・やったことある「○○狩り」は?

イチゴとリンゴと梨。

15・理想のデートコースは?

一緒にでっかい本屋さんに行って「○○時にレジ前集合ね」って決めといて、ひたすらほしい本を二人で探して、時間になったらレジ前に集合してお会計して、あとでお茶のみながら「なんの本買ったの?」って見せ合いっこする。きゅん~~♡

16・生まれ変わるなら何になりたい?

どっかの国の職人。ろうそくとか……船とかの……寒いとこがいいな。

17・自分を動物に例えると?

アルマジロ。なんとなく。

18・他の3人に一言ずつ何か言う

あややさん

これからも面白いことたくさんしましょう。

●もぐもぐさん

かわいい女の子ウォッチしましょう。

●ひらりさちゃん

また遊ぼうね。

19・今まで一番胸に刺さった言葉は?

「自分が主役でなくても頑張りなさい」。

20・これからやりたいことは?

ずっと文章を書いていって、どこかのタイミングでそれをまとめたいです。あとはいろんな人と話がしたいな……。


おしまい!
他の人の回答がちょー楽しみです(⌒∇⌒)特にかばんの中身~!
バトンって昔めちゃ流行りましたよね!

熱愛未発覚

「ごめん遅れた! お待たせ」
「おつかれー、お腹すいたからもう焼いてるよ」
「流行りの1人焼肉じゃないっすか、お姉さん」
「今1人じゃなくなりましたので違います」
「しかし今日も最初に鶏つくねって、お前さぁ」
「うるさいな……だって好きなんだもん、好きなものから食べたいもん。あるよ、君が好きなのも」
「いやーさすが、わかってるな、ここはタン塩がダントツうまい。あ、レモンとって」
「はいこっち。もう焼けてる、大丈夫」
「やったーいただきます! ……って流されてるけど、食べる前にまず言いたいんだけど、この店のチョイス」
「いいセンスでしょ? なかなか自分じゃ行く気になれないかなと思って予約させていただきました」
「そりゃならねーわ! 自分が週刊誌に撮られた店とかトラウマだろうが!」
「そうだよね~、ただの読者モデルがトップアイドルと週刊誌報道されるなんてね~」
「……なんかその言い方もムカつくな」
「事実じゃん」
「まぁそうですけど」
「この春で読者モデルとしても終わりだけどね」
「まぁそうですけど」
「お疲れ様でした」
「晴れて一般男性デビュー」
「で、付き合ってたの? アヤコと?」
「いや、付き合ってない、何度か飲んでただけ」
「ふうん」
「その目」
「いや、付き合ってたならサイン頼みたかったなって」
「そっちかよ」
「あ、でも私はアヤコよりさよちゃんが好きだから、今度さよちゃんがいたらサインねだってね。さよちゃんかわいいよ~新曲でポジション上がってほしいな~」
「お前もしかすると全然俺に興味ねーな」
「そんなことございませんよ、ほらタン塩こっちも焼けたよ」
「ありがと。あ、俺も鶏つくね食べたい」
「食べるのかよ」
「食べるよ」
「だって別にどっちでもいいよ、嘘でも本当でも。でももしあの時は言いたくても言えなかったことがあるなら今なら言っていいんだよって話」
「……なら、今だから言うけど」
「うん」
「俺はこの話誰にも言ってないんだけど」
「うん」
「アヤコさんは俺の先輩と付き合ってたんだよね」
「えっ嘘」
「誰かは言えないけど」
「くそう、先回りされた」
「無理無理、これはマジで無理」
「じゃあ身代わりってこと! うわー!」
「いやそんなひどい話じゃなくて、一緒に飲んでたんだけど先に帰ってて、あの日たまたま。俺は家が同じ方向だったから酔っ払ってる彼女抱えて家までタクシーで送っただけ
「えーでも完全にとばっちりだよねぇ」
「アヤコさんには悪いことしたよなぁ、俺とああいう写真出たところでいいことマジで1つもない」
「いやその前に自分でしょ。あんなに叩かれて」
「ブログのアクセス数すげー増えたからね。ビビったわ」
「濡れ衣……なわけじゃないけど無実の罪で嫌じゃなかったの?」
「うーん、そりゃ最初はイライラしてたけど。でも俺でよかったかもなって思った」
「なんで?」
「別に本気じゃないから、いつかやめるって思ってやってたから」
「あー。芸能界を」
「なんだろう、もっとでかいこと。自分をまるごと商品にする生き方そのもの」
「でもさー、そもそも恋愛って悪いことしてるわけじゃないんだから隠さなくたっていいんじゃないの? 騒ぐ人は騒ぐだろうけどそういうのに合わせて隠してあげなくてもさぁ」
「まぁそれもそうだよなぁ、けど」
「けど?」
「そんなレベルのことで、あの人が損する可能性あるなら本当にバカバカしい。別に悪いことじゃないの知ってるけど、だったらなおさらバレないでほしい」
「……大好きじゃん」
「凄いし、超かっこいいから」
「で、誰なの」
「言えないけど」
「ケチ」
「はいはい」
「健気ないい後輩だ」
「健気とかじゃない、本気の人は分かる、全然違う。元々並んですらいない」
「ふうん」
「あんなに沈めないよ。俺はここでずっと潜ってられる人間じゃないって分かる、すぐ分かる」
「じゃあ未練、ないんだ」
「ないない、マジでない」
「あれがきっかけで辞めなくちゃなのかと思った」
「むしろおいしいんじゃない? ガチで成り上がる気なら」
「確かに……」
「自分の人生に覚悟持ってる人はそれだけでエラいよなぁ、はぁ就活しよ」
「一気に現実に戻る」
「そりゃそうよ、現実を生きなければ」
「ならじゃあまぁ、おかえりなさいこちら側へ、焼肉を自由に食べられる世界へ」
「焼肉の自由」
「熱愛の自由もオプションで付けられるよ」
「熱愛の自由」
「美しい世界でしょう」
「うーん、でも熱愛発覚には週刊誌に撮られる必要がある」
「そっか、熱愛の権利は選ばれた人のものだった」
「下々の人間は永遠に熱愛未発覚だから」
「今この時間も熱愛じゃないですね」
「ないね、絶対にない」
「酔ってふらふらになって首に手まわして抱きついても手つないでタクシー乗ってマンションまで送ってもらっても熱愛にならない?」
「えぐってくるな……」
「これが自由な世界!」
「今日はあの日と違って誰にも義理なんかないから、めんどくさい酔っぱらいは道端に置いていきます」
「いつか熱愛になりますかね?」
「パパラッチ雇って撮ってもらうしかない」
「一般女性と一般男性だから無理かな……」
「無理だね」
「それでは、これからも末永く続く熱愛未発覚を祝して」
「乾杯?」
「いいえ、ありがたく肉を食しましょう」
「間違いない、それしかない」
「俺タン塩、最後の」
「じゃあハラミにしよ」
「ああ神様、焼肉の自由、ばんざい!」

ガールミーツ

しゅうちゃんには、幸せになってほしいんだよね、と、冗談めかして言われたことがある。

握手会の小さな、パーテーションで区切られた空間。完全なる個室ではないそこで、そのとき、目の前の男は目を輝かせてそう言った。その輝きは希望でも興奮でもなく、妙にべったりと張り付いた謎の感情から来たものだったように記憶している。なんてね、とごまかされたが、多分本気だった。けれど言葉とは裏腹に、私が「幸せ」をつかむことを拒否しているような面持だった。

いちいち覚えていては頭がおかしくなるが、彼のことはなぜかはっきりと覚えている。去年の6月、新曲リリースの握手会。彼は何度も来た。何度も何度も来たうちの、確か4回目だった。今まで言うのを我慢していたけど、思わず言っちゃった、というふうだった。気持ちが悪かった。純粋に。その時はまったく彼の感情を理解できなかったし、理解してはいけないと思っていた。

けれどどうだろう。丁度1年後、今の私が、彼と同じ気持ちを抱いているなんて。






佐世子はいつも能天気に、新幹線でも、バスでも、現場の食事でも、私の隣に座る。
今日もそうだった。キャリーケースを上部の荷物入れに、マネージャーに収めてもらったあと、小さなキルティングのバッグを持って、私の隣へ来た。
白い二の腕が私の腕に接した。ひやりとやわらかい感触。空調が効いているのに、無防備だ。私は膝にかけていたパーカーを取って、佐世子の肩に着せた。近づくと、いつも使うコロンの香りが鼻先をかすめる。何のコロンかも知っている。見て見て買ったの、と、楽屋で見せられたから。

「えへへ、しゅうちゃんおおきに」
「うん」
「今日もお隣やね」

バッグからグミの袋を取り出す。佐世子のバッグの中には、彼女の好きな「かわいいもの」ばかりが入っている。桃色、黄色、水色。佐世子の頭の中みたいだ。
私は前の座席についているボードを下ろし、スマートフォンと飲み物をそこに置く。佐世子もならった。グミと、キラキラとデコレーションした自分のスマートフォンを置く。こういうことはよくあった。佐世子に、ひな鳥のように動きをまねされること。

明日の東京での番組収録のために、大阪を出発する。
最近東京での仕事が増えてきた。佐世子と私は、よくひとまとめに東京へ呼ばれる。グループの代表としての仕事が多い。アイドルになってから、ずっとひとまとめだ。私と佐世子の名前をくっつけた、コンビの呼び名まである。共通点はどこにもない。私は佐世子について理解できないことも多いし、佐世子もそうだろう。大人に決められて、今日からふたりでひとつだから、と言われただけに過ぎない。けれど佐世子は、それを「運命の出会い」だと心底信じている。純粋に。まっすぐに。

新幹線がゆっくりと滑り出す。腕時計で時間を確認する。午後18時9分。時間通りの出発。

私は目を閉じた。イヤホンを耳に入れて、佐世子が教えてくれたロックバンドの曲を聴く。最近はこればかり聴いている。
佐世子はバッグから台本を取り出して、ラインを引きながら読み始めた。

「まじめ」

思わずそうつぶやくと、佐世子はこっちを下から見上げるようにして、子どもの笑顔になった。
「ちゃんと読まな失敗するもん」
「いつも失敗せえへんやん」
「それは私がいつもがんばっとるのと、しゅうちゃんが隣におってくれるからやで?」
「……そおなん?」
「そやで~」

体のどこかが、きゅうっと音を立てて圧縮されたのがわかった。佐世子といるとこういう風だ、いつも。
私のからだとこころが壊れていく。

窓の外は雨だ。少し走ると、いきなり田舎の風景が見えてくる。青々と茂った緑だったり、土色の瓦を乗せた家屋だったり。視線をそらして、そういうものを見ていた。見ながら、からだのどこが圧縮されてしまったのか、感覚で探っていた。



私は佐世子のことが好きなんだ、と気づいて、だいぶ時間が経つ。

気づくのは簡単だったけれど、認めるのには時間がかかった。人を好きになったことはなかったし、いとおしく感じたこともなかった。いつだって自分が一番かわいかった私が、佐世子を見たとき、思わず涙が出そうな感覚に陥ることに気付いた。そんなはずない、何かがおかしいんだ、と、毎日必死だった。佐世子のことはともだちで、大事な仕事仲間だった。そんなくだらない感情で、彼女を失いたくなかった。

けれど、自分の中に芽生えた感情を「くだらない」と否定し続けることは、たやすいことではなかった。それは自己否定だった。私は必死で自己否定をして、あっけなく体調を崩した。佐世子とするはずの仕事を、ほかのメンバーと代わった。点滴を打たれながら、今から這いずってでも仕事に行く、と逆切れした。佐世子の隣にいることは、私にだけ許された、私の生きる意味のように思った。それを無くせば、私が私でなくなるような気がした。病院のベッドの上で、そんなことを考えて、そのときやっと認めた。「私は佐世子のことが好きなんだ」。

なんて陳腐な物語なんだろう。



流れていく景色の中に、私と佐世子の記憶がある。初めて東京へ呼ばれた日、全然うまくしゃべれなくて、二人で泣いて帰った。たしか、このあたりを通っているとき、仲直りしたんだった。大ゲンカした日もある。原因はものすごく些細なことだった。もう覚えていないくらい。あの日は結局新幹線の中で言い合ったあとも言い足りなくて、新大阪の駅ナカの喫茶店でもう2時間喧嘩したんだった。小さな声でちくちく言い合いして。佐世子が泣いて、私がそれを慰めて、終電で帰った。全員で東京収録の音楽番組に呼ばれたとき、佐世子は「わたしたちは東京の先輩やから」って無駄に胸を張っていたっけ。

私はこうしていつも、一人で記憶を掘り起こす。隣で佐世子が何を考えているのかはわからない。でも、彼女には、能天気でいてほしい。何も考えず、ひたすら明るく、ひらけた道を歩いてほしい。妙にしんみりと、そんなことを考えてしまう。佐世子に対してはいつもそうだ。私に「幸せになってほしい」と、勝手に祈った男と同じように、私は佐世子の幸せを、無責任に、勝手に、祈ってしまう。

アイドルなんて、やめてしまえばいいのに。私も、佐世子も。



「しゅうちゃん」

佐世子が私の肩をたたいた。イヤホンを耳から出して、閉じていた目を開く。思考の中でたゆたっていた眼球が、光を取り戻す。真っ白なトップスを来た佐世子は、私の目に痛い。

「何考えてるの?」

佐世子の問いかけに、一瞬ためらった。こんなことを聞かれるのは初めてだった。佐世子のことを考えてたよ、なんて言えない。考えるだけで笑ってしまう。佐世子はひたすらまっすぐ私の目を見てくる。それも、痛い。

「……寝てた。昨日あんま寝れんくて」
「ほんま?確かに、顔疲れとるかも」
「せやろ~、最近肌荒れてさぁ。もう歳かな」
「えー、全然わからへん。そんなことないよ」
「サプリとか、飲まなあかんかな」
「んん~」

嘘をついた。佐世子はにこにこと、羽根をつくろうようなしぐさで、手元のネイルをいじっている。ごまかせた。私がほっとして、飲み物を一口飲むと、佐世子はパッと顔をあげて、かたまりのような言葉を私に差し出した。


「しゅうちゃん、アイドル、やめる?」



何もかもが止まったような感覚だった。脳みそが縮む、ような。

なんて返せばいいかわからなかった。まさか、佐世子が思考をよめるとか、そういうことまで考える。嘘で返したい。でも、嘘で返せない。佐世子が見ている。私の好きな人が見ている。嘘をつけるのか、私に。上手に、佐世子を笑わせる嘘が。

私は何も言えなかった。


「あんな、佐世子は……あの、ダンスも歌もへたやし、しゅうちゃんに迷惑ばっかりかけるけど、……えーと、がんばるから。今も、佐世子がんばっとるよな?このままずっと、おばあちゃんになってもがんばるし、うーんと、しゅうちゃんも、がんばってほしいなって……思って。なんて言ったらいいかよくわからんけど。今いうのも、めっちゃ変やけど。でも、今言いたかったから、言いました。」

どこに向かっているんだろう、私と、佐世子は。

「佐世子は、しゅうちゃんにしあわせになってほしいねん。せやし、しゅうちゃんが叶えたいことを、一緒にがんばる。しゅうちゃんがしあわせなとき、佐世子も多分しあわせなんよ。たぶんね。やから、しゅうちゃんはしあわせになってください。佐世子のために。」


なぜいま、佐世子はこんなことを。私のことを見ていて、何か感じたのかもしれない。妙な顔をしていたかもしれない。佐世子を心配にさせるような顔。思いつめた顔。


「やめへんよ、ごめん、佐世子、……」

そのことばが本当に嘘ではないか、誰かが、私を裁くような気がした。


今すぐこの列車を降りてしまいたかった。列車を降りて、普通の人間に戻って、佐世子との出会いをやり直して、もっとまっとうに、佐世子と笑いたかった。
人のしあわせを願うこと。佐世子は純粋だ。純粋に、私のしあわせを願っている。でも、私はちがう。佐世子の幸せを願う気持ちは、純粋なんかじゃない。佐世子の「普通のしあわせ」を願いながら、佐世子のことを奪って、自分のものだけにして、ふたりっきりで、生きたいと、本当は思っている。
こんな人間のしあわせを願う価値はないんだ、本当は。だって私が本当の意味で幸せになれば、佐世子は、きっと幸せではない。私は佐世子を不幸せにしなければ、自分をしあわせにすることができない。


あの日、私に「しあわせになってほしい」と言った男の姿を思い出す。

彼はどんな気持ちで、あの言葉を言ったのだろう。私のしあわせを、本当に願うのなら、私が子供を産んでも、知らない男とどこかへ行っても、佐世子と何もかも捨ててどこかへ行っても、それでも彼は私に向けて祈ってくれるんだろうか。私のしあわせを。誰かを不幸にする私のしあわせを。


「……うん 」


目の奥が熱かった。それを佐世子に感づかれないように、下を向いて佐世子の肩を撫でる。困ったとき、私はすぐに佐世子にふれる。間がもたないとき、いつもそうしてしまう私のことを、佐世子は知っていた。佐世子が笑う。

新幹線が停車する。横並びの座席に座っていた女性が降りて、代わりに違う男性が乗り込んでくる。わたしたちは降りない。佐世子に手を握られる。

降りなくてよかった、と、いつか思う日が来るのだろうか。それはいつで、そのとき佐世子は、私の隣にいるのだろうか。
聞きたいことはたくさんある。私は胸の中に溜まった息を吐き出して、佐世子の手を握り返した。それが正解だったのかはわからないけれど、佐世子は、いつもの嬉しそうな顔をしていた。

ガチ恋禁止条例

20XX年、「ガチ恋禁止条例」が制定された。「ガチ恋禁止条例」とは、“ガチ恋”“本気愛”“リア恋”等と呼ばれる、ファンがアイドルに対して恋心を抱く事を禁じる条例である。何故この条例が制定されたのか、時代の流れとしてはこうである。

2010年代、アイドル界は戦国時代と呼ばれる程の大きな盛り上がりを見せ、またそのアイドルたちの多くが「恋愛禁止」の条件に従っていた。アイドルは常にファンの擬似恋愛の対象として夢を見せ続けなければならない、という固定観念はその後も長く続き、その条件を破ったアイドルにはそれ相応の処分が課せられたり、自ら責任を感じたアイドルたちはこの世界から姿を消した。そういったアイドル界の風潮を、外野は今こそ叩くべき時だと指を差して嘲笑い、ファンは肩身を狭くしてその揶揄を受け入れているしかなかった。それでもアイドルに対する「恋愛禁止」の概念は弱まる事なく、今日までの長い年月、当然の事項として続いて来た。

どうにかしてこのアイドル界に蔓延る「恋愛禁止」の概念を覆したい、そう思ったアイドル好きの政治家が動き出したのだった。彼の主張はこうだった。「私はアイドルに対して恋心なんて一切抱いていない、ファンの中でも恋心を抱いているのは僅か3%しかいない事が調査より判明している、アイドルたちに安心して恋愛して貰えるように“ガチ恋禁止条例”を制定したい」。くだらない条例が出来たものだと外野はまた嘲笑ったが、国民の多くがその条例がどう施行されるのかに注目していた。

まず、ファンの元には加入していたファンクラブから「健康診断証明書の提示依頼」という書類が到着した。その「健康診断証明書」とは一般的な健康診断とは別ものであり、指定された病院に行って、1時間アイドルの映像を見ながら身体のあらゆる部分の反応を診断されるものである。医療技術の進歩により、身体のどの部分がどのように反応しているかを見ることで、アイドルに対して恋心を抱いているか否かが判断出来るようになったらしい。「アイドルに対する恋心なし」と書かれた「健康診断証明書」をファンクラブに提出して初めてファンはファンクラブの有効会員になることが出来た。その健康診断によって、多くの若いファンが「アイドルに対する恋心あり」と診断され、ファンクラブの無効会員となってしまい、再診断を受けられる半年後までにアイドルに対する恋心を失くすよう、医師からアドバイスされた。彼女たちは勿論のことその間、ライブやコンサートに足を運ぶことはできなかった。

健康診断をクリアしてファンクラブの有効会員になるだけでは、この「ガチ恋禁止条例」は勿論終わらない。恋心なしと判断されたファンたちは、若い層が居なくなり倍率の低くなったコンサートのチケットの申し込みには大層喜んだが、コンサートに行くにはもうひとつハードルがあった。それは会場の入場口で配布される「ガチ恋受信機」だった。会場内に入る人全員に配布され、全員がそれを装着しなければならない。装着を拒否した場合は、出入り禁止となる為、健康診断でも恋心なしと診断された自信のあるファンたちは迷わず付けた。しかしながら健康診断で見ていたものはあくまで「映像」であり、生でアイドルを見た途端「ガチ恋受信機」が反応してしまうファンは少なくなかった。「ガチ恋受信機」が反応した時点で途中退場となり、コンサートの開演時には満席だった客席も、アンコールを迎える頃には、目に見えて分かる程の空席祭りになった。最後まで見ることが出来たファンは、お互いにその栄誉を称え合い泣きながら抱き合った。

一方、「ガチ恋禁止条例」が制定されてからのアイドルはどうなったかと言えば、晴れて自由の身となり、オープンに恋愛事情を語るようになった。コンサートのMCでは「今日は恋人の○○が見に来ています」と発表し、恋人にスポットライトを当てて客席からの拍手を煽った。グループで活動しているアイドルたちは、大半のメンバーに恋人がいるにも関わらず一向に恋人が出来る気配のないメンバーをみんなで心配したりもした。「アイドルをやっているのに、恋人がいないなんてヤバい」という世間の目を気にして、無理にでも恋人を作ろうとするアイドルが増えた。また「ガチ恋禁止条例」のおかげで、結婚に対するファンの厳しい目からも解放された為、20代で結婚するアイドルが増えた。10代で結婚するアイドルもいるという。アイドルの早婚が盛んになったことは、晩婚化が進んでいた社会にはとても良い影響を与え、「○○くんも結婚したことだし、私も結婚しよう」という若者が増えた。

「ガチ恋禁止条例」は成功した、と誰もが思った。アイドルたちは結婚し、子供が出来ても尚、ステージに立ち続けた。健康診断で何度も「恋心あり」と診断された若いファンたちは、半年後という遠い再診断を待つのも馬鹿らしくなり、ファンを卒業して自分の夢を追いかけるようになった。「恋心なし」と診断され「ガチ恋受信機」を装着しても反応を示さないファンたちは、数の増減を繰り返してはいるものの、一定数生き延び続け、アイドル界を支えている。世界は丸くおさまった。と思っていた。

テレビを付けるとそこにはもうアイドルの姿はなかった。専門家は言う「アイドルは死んだ」「未だにアイドルと名乗っているものはゾンビのようなものだ」と。「ガチ恋禁止条例」が制定されて以降、急激にアイドルの経済効果は下降した。コンサート会場として東京ドームを使用するアイドルは居なくなった。何故なら5万5千人の「恋心なし」と診断されるファンを集められないからだ。アリーナ、ホール、とどんどん規模は縮小し、最終的にはデパートの屋上でイベントを行うアイドルがほとんどになった。「ガチ恋禁止条例」以前では、サクセスストーリーを描くアイドルの道として描かれていたルートを逆走するような形になった。しかもそこに集うファンは「恋心なし」と診断されたファンたちのみで構成される為、いわゆる黄色い歓声というものが無く盛り上がりに欠ける。「恋心なし」のファンたちは、メモ帳とペンを首からぶら下げながら、たまにそれに何かを書き込んだりしながらじっと見ている者ばかりだった。アイドルたちもステージに立っても張り合いがなく、擬似恋愛の対象として存在するのを辞め、誰かの恋人になった途端、ファンに対して誠実な対応をすることを忘れてしまった。ファンよりも大切な恋人や家庭が出来てしまったアイドルは、もはやそれはアイドルではなく、ただの人だった。専門家はそういう意味で「未だにアイドルと名乗っているものはゾンビだ」と言った。

「ガチ恋禁止条例」は、アイドルを殺す結果になった。世の中からアイドルという概念を消してしまった。条例を制定した政治家は今頃この状況をどう捉えているのだろうか。アイドルのいない世界なんて、つまらない。

私が今まであった美人と、その感覚の起因について

21年間、ぼーっとしながらだが生きてきました。その中で、美人と呼ばれる類の人間に、少なからず出会ってきたと思います。美しい人だから「美人」だけれど、その「美しい」は、美人によってまちまちです。どこがどう美しいのか、どうして美しいと思ったのか、私はなるべく頭に焼き付けるようにしていました。そうすれば、自分もそれをモンタージュのように組み合わせれば、美人になれるのではないかと思っていたから。もっとも、そんなことは神の手を持つ天才外科医みたいな技術がないとできないことなのですけども。

このお題に悩みに悩んだ私は(毎回このブログの記事については、書く内容を必死で脳みそを絞って考えている)、今までわたしが出会ってきた「美人」たちと、彼女らを「美人だな」と思った感覚がどこから来たものなのかを、なるべく詳細に思い出し、書き連ねることにしました。それで記事になるかどうかはわかりませんが…。私にしか伝わらない表現もあるかもしれません。それでも、まあいいかと思います。美人の前では、理屈なんてそんなもんだろうな~と思うので。





●Rちゃん
7歳~17歳まで通っていたダンススクールで、同時期に入所した女の子だった。歳は彼女の方が2つ、3つ下だったように思う。
身長が高く、色が透き通るように白く、色素が全体的に薄かった。長いサラサラの髪の毛をしていて、スクールに来るときはいつも邪魔にならないよう束ね、前髪も上げていた。それがさらに美人度にブーストをかけていたのかもしれない。容姿はほんとうに「赤い屋根の大きなおうちにすむお嬢様」を地で行く感じだったし、何よりお母様がとても麗しく、お父様は非常にダンディだった。お母様がGACKTの熱狂的ファンだったのも個人的に心にグッときていた。

《Rちゃんの個人的美人ポイント》
性格が非常に大人しかったところ。声がとてもきれいだったのだけど、併せてとても声が小さくて、いつも風が吹くような声で喋っていたことを思い出す。内気というか、ぼんやりおっとりしていて、ダンスもふんわり優しかった。誰かに呼ばれるまで手を上げず、呼ばれてからも白い腕を控えめに挙げるような子だったのだが、私はそれがすごくすごく胸にきゅんときた。美人はぎゃあぎゃあ騒がないものである、という先入観からかもしれないが、ほんとうにきれいな子だった。


●Sちゃん
高校時代の同級生。地区もかなり離れたところからお互い通学していたため、特に積極的な関わり合いはなかったのだが、小さな学校だったため、どんな子かはおおよそ知っていた。私の兄が所属していた部活のマネージャーをSちゃんがやっていたため、兄からちょこちょこ情報がはいってくることはあった。自由奔放天真爛漫な性格で、いつも友達をワイワイしていた。Sちゃんの周りにはいつも男女問わず人がいて、私もそれに混ざってみたい……と思うことすらあった。長い髪と大きい目がかわいらしかった。顔が小さいので、目がとってもとっても印象的に見えた。

《Sちゃんの個人的美人ポイント》
気が強かったところ。ちょっと仲の悪い女の子と公然と喧嘩(しかも手が出るタイプのやつ)をしているのを何度か見かけたことがある。大きい目を吊り上げて怒るSちゃんに、不思議と私はきゅんとしたことを覚えている。激情に身を任せる女の子はかわいいと、Sちゃんを見て初めて気づいた。


●もぐりん先輩
サークルの先輩。群馬出身で、大学に通うため関西で一人暮らしをしていた。めちゃくちゃ繊細で、いつも今にも倒れるんじゃないかみたいなか細さのある人だった。身体が弱くて、群馬から出てきてすぐ水が体に合わなくて体調を崩したり、日光に弱くていつも長袖に日傘だったりした。肌も弱いためいつもほとんど化粧っ気のない人だったけど、ものすごく透明感があった。メイクをしたら、AKBのぱるるちゃんに似る。いつもみんながワイワイしてる隅で、黙ってにこにこしていた。

《もぐりん先輩の個人的美人ポイント》
物静かそうに見えて頑固で意思が強かったところ。サークルの運営の他、学園祭実行委員に参加しつつ就職活動をしていたため、みんなにぶっ倒れるからやめろと言われても、絶対やめなかったし全部完璧にやり終えたのがほんとうにかっこよかったし、凛としていた。今は卒業して群馬で働かれてるみたいだけども、また会いたいな~。


●えぬちゃん
サークルの同級生。私のブログやツイート等を拝見している人にはお馴染みの女の子。背が高くてスタイルがよくて、アイラインをキュッと上げて、そんな女の子。気はわりと強めで、言いづらいこともわりとサクサク言う。おねえさんキャラで通ってる。男の子にけっこう頻繁に言い寄られてるけど、あんまり他人に興味がないらしく、聞いてないことが多い。ナンパとかも視界に入ってないので華麗にスルーする。しっかりものの倹約家で、キャベツ1玉買うのにしばらく悩む。

《えぬちゃんの個人的美人ポイント》
とにかくしっかりものだったところ。一人暮らしをするうえでの必要事項は全部きっちり抑えていたし、授業にもきっちり出ていたし、自分のためにならないことはしなかったし、興味のない人からの好意はヘンに受け取らなかった。それがすごーくかっこよかったし、大好きだった。かと思うとにんじんが嫌いだったりするので、私はほんとうに四年間ずっと彼女にめろっとなっていました。


●すみれちゃん
私の所属していたダンススクール主催のミュージカルに、外部から参加していた女の子。歳は私のみっつくらい下。とにかくものっっっすごい容姿の持ち主で、身長は170センチ近くあって、長い黒髪で、折れそうなウエストと体の半分以上ある脚がお人形さんみたいだった。目鼻立ちもすごくくっきりしていて、往来の人がみんな振り向くとはこのことか…と実感した。お母様が過去モデルをされていたらしく、ほんとに美しすぎる親子だった。小さい頃からミュージカル女優になりたくて、ピアノや声楽、バレエ等、いろんなレッスンを毎日ぎっちぎちに詰め込んだ生活をしてた。

《すみれちゃんの個人的美人ポイント》
とても純粋だったところ。まっすぐに努力をしていたから「自分は必ず望んだ道へ進む」ということをこれっぽっちも疑っていなくて、それがものすごく美しかった。かと言って生意気な感じや調子に乗ったところは全然なく、いつも稽古場に入るとすぐ「おはようございます」とみんなに挨拶して、人の稽古をじっと見て、帰るときは「お疲れ様でした、お先に失礼します」とみんなに声をかけていた。そういう礼儀正しいところは、彼女が小さい頃からいろんなものを見て、教わってきた結果の行動なんだな~と思う。普段の性格がとってもぽやぽやで、意外とおしゃべりだったりごはんを食べるのがとても遅かったりしたのが個人的にツボだった。





以上、私の中の美人メモリを開放しました。

個人的美人ポイントを読み返していて、私はやっぱり「一貫している」人が好きなんだな~と感じました。何か叶えたいことがあって、それのために全ての行動が伴っていたり、自分のことを信じてゴーイングマイウェイだったり。悩んでくよくよして、行動も性格もブレブレ、という人を、私は美人だと思わないんだな、と。
容姿には限界があるかもしれないけれど、そういうふうに一貫した人間になることなら、私にもできるかな……ともおもいます。自分に正直に、自分の要素を全部一貫させて、自分のことを自分における「美人」の概念に沿わすことができるよう、がんばりたいです。まる。

美人は性格がいいか?

美人がだいすきである。

テレビや舞台で愛でることのできる一流の美人、その「顔」を商売道具にしている美人たちだと、
有村架純さんとか山本美月さんとか最近マジかわいいと思うし、AKBだと篠田麻里子さん大好きすぎたし、
男性だと、岡田将生さんと小西遼生さんの顔が本当に本当に好きで、いついつまでも見つめていられる。
(ちなみにこの二人は全然兄弟とかではないはずだがめっちゃ似ていると思う。他の人にも意見を聞きたい)

しかし、そうやって玉のように光り輝いて大勢に認められている「プロ美人」よりも
私が心ひかれるのは、身近な、手が届く距離にいる美人である。道行く人の顔をじろじろ
見つめては美人探しをしているので、いっしょに歩く人にはだいたいキモがられる。

そんな身近な美人のなかで私が一番美人だと思うのが、中高大の同級生のSだ。

Sは柴崎コウ似の美人で、入学したてのころから同級生のあいだで「美少女戦士」などと呼ばれていた。
昔から少女漫画雑誌の読み過ぎで面食いだった私は、Sと同じ部活(バレー部)に所属することになって、
どきどきはしていたものの、カースト高めの部員たちに取り囲まれているSとはほとんど話すことはなかった。
先輩すら1年生全員を怒っていても「Sちゃんはかわいいから許す」というスタンスをかもしだしていたくらいだ。

ちなみにうちの学校は女子校なので、先輩も全員女子である。女子校というのは男性の目がないぶん
牧歌的になるように思えるかもしれないが、かわりに「女子が女子を愛でる」土壌が醸成されているので、
厳然とした容貌カーストが打ち立てられているのである。

そんなカーストがばりばりに働いていたバレー部において、もっさりとしているうえに協調性やおべんちゃら能力のない私は
大変に生きづらく、っていうかそもそも何で入っちゃったのか忘れたくらい球技が苦手だったので1年間でソッコー退部した。
そのままSと接近することもなく私の人生は終わると思われたが、運命のいたずらというものはあるもので、
っていうかまあ単なる偶然なんですけど、Sと私は同じ大学に進学することになった。

一応最難関大学ということもあり、同じ大学に進学する人間は20人ほど。
1/240人から1/約20人の関係性になった私達はそれなりに会話などをかわすようになり、
「知り合い」から「友達」へと進化したのだが、そこで判明した衝撃の事実があった。
Sが「美人と言われると不機嫌になる」人間だったということだ。

贔屓目でなくミスコンに出られるレベルの美人であり、大学入学時も当然周囲の話題をさらっていたSなのだが、
まわりから「Sちゃんってかわいいね」「っていうか柴崎コウに似てない?」と言われるたびに、
「そんなことはない」「似てない」と至極不機嫌な顔で否定するのである。
「そんなことないよ〜」「似てないよ〜」という差し障りのない謙遜ではなく、ガチ否定である。

なんと、Sは自分のことを美人だと思っていなかったのだ。

いや、それも本当は正確ではなくて、たぶん、自分が世間的には「美人」と呼ばれる部類
なのは認識しているが、それを認めたくない、そこをアイデンティティにしたくない、
という強固な意思を持っているということである。

それと関連しているかはわからないが、親しくなって知ったSの内面は、
ぜんぜん「美人」ぽくなかった。

たとえば、

・生まれも育ちも浦和
・浦和のしまむらで買った1000円のワンピースを愛用
・好きな食べ物は「きゅうり」、2番めは「かっぱ巻き」
・大学の体育の時間に急に険しい表情になったので「どうしたの?」と聞いたら、「ジャージの股が……さけた……」
・しかもそのジャージは弟のものをこっそり借りてきたやつ
・好きな異性のタイプは「花より男子」の道明寺
・「頭のいい人は嫌だった。やっぱ道明寺くらい明るいバカがいい」
・「それか40歳くらいの画家と結婚したい……」

といった感じである。
(決して浦和をdisる意図はありません)

そんなSと仲良くなったことで私は、美人への幻想というのは、
想像以上に美人たちを生きづらくしているのではないかということに気づいた。
たとえば「美人ほど性格がいい。ブスは性格が悪い」という言説がしばしば話題になるが、
あれって、非美人にも失礼かもしれないけれど、美人に対してだってまったくもって失礼なのである。
美人にだって、性格の悪いことを言ったり他人の悪口を言ったり「美人」を素直に喜ばなかったり1000円のワンピースを着たり
浦和のホームセンターで遊んだり「道明寺と結婚したい」と夢見心地なオタ発言をしたりする権利はあるのである。

私はどうしても道行く美人を見つければジロジロ眺めてしまうし、Sに会うたびにパシャパシャと写真を撮りまくってしまうし、
実は大学新聞をつくっていたときに「大丈夫、ほんの3行くらいの目立たないコーナーだから」と言って美人紹介コーナーに
Sを出演させた結果、まあもちろんふつうに紙面のなかでも目立つ企画なので、その後Sに往来でぼこぼこに殴られたりしたし、
美人を「消費」する側の人間であることには変わりないけれど、美人たちが楽しく生きられるように、
出来る限りの配慮をしていきたいし、美人のそばに置いておいてもらえる人間になれるよう、
むしろ自分の性格をこそ良くしていかねばならないと思っている。

あー、美人だいすき。

まわれ光れポワレ

兄が結婚することになった。聞いたことはあるけどどこにあるか知らない星の人と。太陽系ですらないから、相当遠いところっぽい。ソファーに寝転がりながらその知らせを聞いた瞬間、数年ぶりの再会の感傷や気恥ずかしさがぶっ飛んだ。思いつく限り質問攻めにしたけど、よれよれのトレーナーを着たその人はかわいいはずの妹の方を見もしない。冷蔵庫からコーラを取り出し、気怠げに言った。まぁ明日会った時、聞いてみたら。

初めて前にした彼女は大変な美人でびっくりしてしまった。紫の長い髪、サングラスで隠れそうに小さい顔、しなやかな首筋。のぞいた長いまつげが羽ばたいた後にバチッと目があうと、キラキラした瞳に自分が映ってしまって申し訳なくなる。少しだけ目線を落として小さな声で「はじめまして」とささやき、おでこのあたりをぼんやりと見ながら「き、きれいですね」というのが精一杯だった。よく考えると第一声で外見のことを言うのもどうかと思うけど、その時はそれ以外言葉が出てこなかったのだ。形のよいカシス色の唇を高級なジェラートのようにとろけさせて、彼女は何も言わず、にっこりと笑った。

こじゃれたカフェのテラス席で何味かよくわからないドレッシングのかかったサラダに不恰好にフォークをくぐらせる。彼女は器用に指先(…手先?)を細く伸ばしてレタスを折り込む。場所も場所な上こんな美人の前で何をどうしたらいいのか、緊張で途方に暮れていたけど、兄があまりにいつもの調子だったから(そりゃそうだけど)だんだん平常心を取り戻してきた。あとはあれだ、昼間から飲む白ワインは人生を明るくする。

最初に名前を教えてもらったのだけど地球の言葉とはずいぶん違う響きの文字列で、3度聞いても少しも覚えられなかったので、少しフライングだけど「おねえさん」と呼ぶことにした。自分の人生でこんなに輝く人が身内になる日が来るなんて思わなかったからドキドキする。

「おねえさん! なんてまぶしい響き!」 彼女は手を叩いてはしゃいだ。結婚するっていうのは家族が増えるってことなのね、と真剣な顔で言われて、こっちが恥ずかしくなってしまった。呼ぶ度に目を向けて笑ってくれることがうれしくて、おねえさん、おねえさん、と何度も口に出していたから、兄は少し不機嫌になった。子どもっぽくふてくされる情けない兄貴の姿を見て私は正直呆れたけど、彼女はくすくすと笑ってなだめるから、ああ大丈夫、結婚詐欺ではなさそうだ、と余計なことを思いながら胸をなでおろした。

おねえさんの星は太陽(…ではないけど、まぁそういうやつ)がすぐ近くにあるからすごくすごくまぶしいらしい。なので、目は糸のように細く爪のように小さい方が、髪は光を遮るべく上下左右に固くふくらんでいた方が、“美しい”。「だから、私は異形だったの」。大きな目も背中を流れる髪も。乳白色のお皿の上でかしこまっている白身魚のポワレにナイフを入れながら、この子は泳いでいた頃は美しかったかしら、と思いを馳せる。魚のみなさんの価値観はわからないけれど、今の君は私には価値があるぞ。おいしいよ。


2人が出会ったのはダンスホールだと聞いて、スプーンからチョコレートムースをぼとりと落とした。兄が? ダンスホール? まったく似合わなすぎる。付き合いで仕方なく行ったその場所で彼女を見てつい声をかけた……なんて言われても、ますます信じられない。外見だけ見て女性をナンパできるような人間ではないと思う。それが例え美しい人だとしても。

違うの、顔を見せずに踊ってたのよ。私の星で古くから伝わるダンス。小さい頃っていい思い出全然ないけど、疎まれて憐れまれて目を逸らされてばかりだったけど、これだけは褒めてもらえてたの。地球の感覚では別にきれいなものではないと思うんだけど、この人、つかつか歩いてきて、どうなってるんですか、もう少しゆっくり見せてください、興味があります、って。

……何が兄の琴線に触れたのだ。話が見えない。

見ればわかるよ、ちょっとびっくりするかも。おねえさんは立ち上がった。髪を束ね、大きく息を吸ってから背中を丸めると小さく毬のようになる。くるくると子犬のようにその場を回ったあと、ふわりと飛んだ。落ちた。また飛ぶ。光る。スピードを変えながらはずむ。

なんだこれ。ダンスなの? ダンスって言っていいの? ……いや、ダンスって言うんだからダンスなのだ。今まで見てきた何にも似てなくてポカンとするしかない。何が起きているかサッパリだ。でも、目で追ってしまう、楽しい気分になってしまう。確かに地球の人の感覚では「きれいなものではない」かもしれないけど、少なくとも幸せなものではある。おねえさんのことをまだ何も知らないけど、出口のない押しつぶされそうな日々に光があってよかった、と思った。彼女が全身でぽむぽむと愛をふりまく横で、私は2本の足でぴょんぴょんと跳ねた。